血圧が、上がっていく

その日のことを、私は何度も思い出した。

 

倒れた日。倒れたシーン。

『格子編み』の視界。

頭や両腕に感じた重さ・・・。

それらは断片的だが思い出すことができた。

 

だが、なぜそうなったのか。

なにか特別な兆しがあったのではないか。

何度も考えてみたが、思い出せなかった。

 

その前日の過ごし方は・・・。

もっと前、数日間、数週間、

私はどういう生活を送っていたのか。

思い出せなかった。

 

しかし“その日”のことは思い出せる。

その日、どんな行動をとったのか。

どうやってインタビューの現場まで行ったのか。

あるいは何時に起きたのか・・・。

少しずつだが、思い出すことができる。

 

 

2016年(平成28年)の11月。

私は1年で最も忙しい時期を迎えていた。

ある雑誌の締め切りに追われていたのだ。

 

美容室経営者のインタビュー記事のみで構成される雑誌『VOYAGER』。

私はライターとして参加していた。

 

総勢54人の美容室経営者のなか、

私が担当していたのは20人前後。

しかも取材先は東京だけではなかった。

大阪や名古屋でのインタビューも多く、

出張がつづき、忙しかった。

 

それがひとつ、

いま思い出す“その日”の背景だ。

 

それから思い出すこと。

それは当日、

つまり“その日”の朝のことである。

 

起床は午前4時半。

歯を磨き、顔を洗い、目にコンタクトレンズを入れた私は外に出た。

犬の散歩である。

愛犬『シャナ』はもう起きて私を待っている。

 

しかし、寒い。

駒沢公園を一周、3Km弱。

それが散歩コースだ。

帰ってくると私はシャワーを浴びる(この温度差が、まず血圧を上げていたらしい)。

 

朝食。これは毎朝、カレーだ。

レトルトカレーにレトルトご飯。

電子レンジでチン。

食べたら食器を洗う。

この時点で午前6時前後。

 

外出着に着替えてバスに乗り、

田園都市線『駒沢大学』の駅まで。

午前7時過ぎの電車で『表参道』へ。

これがキツかった。

 

いつもはバス通勤である。

自宅付近のバス停から終点の『渋谷』まで。

満員なんてめったにない。

それどころか座れたりもする。

だが、“その日”は特別だった。

 

『渋谷』を越えて『表参道』まで。

しかも午前8時半の取材スタート。

バスでは時間が正確に読めない。

よって電車を使うほかなかった。

 

電車は超満員だった。

『駒沢大学』に滑り込んできた時点で、

まず「扉が開くのか」と思われるほど人が充満している。

しかし、開いた。

だが人は降りてこない。

 

私は覚悟を決めた。

身体をぶつけるようにして強引に車内へ。

乗れた。

だがそのとき、また血圧が上がる行為を私は選択したのだ。

 

私の後から若い女性が乗ってきた。

華奢な女性だった。

私はなぜか、その女性を守らなきゃ、と思った。殺人的な混雑からこの人を守らなきゃ・・・。

私は女性に自分の身体を押しつけないように、とっさに左手を出して電車の扉を押し、

密着しそうになる身体の間に空間を設け、距離を取ろうとした。

 

いや、そうではない。

そんなキレイゴトじゃない。

私が満員電車のなかで思ったこと。

それは「痴漢に間違われない」こと。

だから私はその女性と距離を取ろうとした。

 

ま、なんであろうと私は女性と距離を取ろうとした。

つまり私は“満員電車”に慣れていなかった。

 

慣れていれば「いつものこと」である。

満員電車で隣り合う人はすべてが“モノ”。

男も女も、若い人も老人も関係ない。

個性や人格などすべて無視。

目的の駅に着くまで周囲のすべては“モノ”。

だけど慣れていないとそれが“ヒト”に見えてくる。

それも私の“血圧を上げ”た。

 

なにしろ『表参道』まで、

私の左手は私の体重と、寄りかかる周囲の“ひとびと”の体重、

それに電車の加速と減速に合わせて前後に揺れる“加速度”が。

 

左手には震えるほどの圧力がかかっていた。

(でも、その女性、私がそんな行動をとっていたことなんか夢にも思わないだろうな。ま、いいけど・・・)

 

さらに、である。

『表参道』に着いた私はエスカレーターで地上へ。

すると雪の舞う世界である。

つまり急な温度変化で心臓に負荷。

 

時計を見るとまだ8時前。

そこで『スターバックス』へ。

待ち合わせまでの時間をつぶす。

店内は暖かい。

つまりまた急な温度変化。血圧は上がる。

加えて「ドリップコーヒーをマグカップで」。

じつはコーヒーも血圧を上げる(らしい)。

 

そしていよいよインタビュー。

相手は有名美容師。緊張する。

いや有名かどうかは関係ない。

インタビュー前は必ず緊張する。

それは何十年経験しても変わらない。

つまり、血圧は上がる・・・。

 

以上である。

 

順を追って思い出してみると、やはり“血圧は上がる”。

ま、しょうがない。

しかも私の「通常の」血圧は、上が150〜160前後。

健康診断では数年にわたってアラートが出ていたのだ。

(さらには耳たぶ。いつからか耳たぶにシワができていた。シワというか窪みというか。指でさわるとかなり深い。これは動脈硬化のサインであり、心筋梗塞や脳卒中の予兆となりうる、という。実は数年前から、耳たぶにできたそのシワも気になっていた・・・)

こうやって書いてみると、かなりヤバい。

いや相当ヤバい。

でもこれを公にすることで、

少しでも同じ病気になる人が減らせたら、と・・・・

 

いや、参考になることは・・・ないですね。

スミマセン。