脳が
どこかに・・・
5年生存率、57・9%
なぜ、オオゴトになるのか。
患者が“転倒”すると
なぜオオゴトになるのか。
再発、である。
たとえば脳出血。
これが再発してしまう。
これをみんなおそれるのだ。
脳出血を一度、起こしてしまうと再発の危険が高まる。
(ちなみに脳出血の5年生存率は57.9%というデータがある)
そりゃそうだ。
一度、出血したら二度目は簡単に起こる。
とくに“出血したて”の入院中である。
たとえ出血は止まっていても、
どういう状態で止まっているのか医師もわからない。
正確なところは、わからない。
なぜなら頭蓋骨を開けて、
患部を実際にナマで見てはいないからだ。
よって、処置もしない。
(いや、ちょっと語弊がある。お医者さん、ごめんなさい)
30cc以下の出血量だったから、
手術はしなくて済んだ。
頭蓋骨を開けずに済んだ。
これは私にとって幸運だった。
で、医師は止血の処置を薬に頼る。
朝食後に5種6錠。
昼は1種2錠。
夕食後は4種5錠。
何の薬かわからないが、とにかく飲む。
欠かさず飲む。
これで出血(だけではないと思うが)を徹底的に食い止める。
お医者さんはそうやって精一杯の努力をする。
なのに患者は・・・
(というより私は)“転ぶ”のである。
“転倒”するのである。
しかも何度も。
“転倒”でもっとも避けたいのは頭部打撲である。
簡単にいえば頭を打つことだ。
スタッフが駆けつけて最初に聞くこと。
「頭を打ちませんでしたか?」
「だいじょうぶです」
と、言いたいが言葉にはならない。
理由は2つ。
ひとつは失語症で言葉が出てこないこと。
そしてふたつめは・・・
実際、頭を打っているため、恥ずかしくていえない・・・。
いや、実にラッキーだとおもう。
転倒しても、何事もなく退院できたのだから。
私の場合、入院中の再発はしなかった。
もちろん今も、再発はしていない。
今のところ。
だけどこの病気はいつ再発してもおかしくない。
再発の話は入院中、何度も聞かされた。
スタッフの口から、看護師さんから、リハビリの先生からも。
しかし入院中の再発は、聞いたことがなかった。
すべては退院後の話だった。
退院後、転倒した人が再び病院に戻ってきた。
その話は、衝撃だった。
スタッフや看護師さんから聞く話。
そのすべてが私に突き刺さった。
私は退院後、“転倒”しないだろうか。
無理だ。
無理だろう。
転倒するだろう。
入院していても転倒するのだ。
退院したらもっとする。
じゃあどうするか。
転倒しない技術、
転ばない方法を身につけるのだ。
しかも入院中に。
それしかない。
私はますます真剣になった。
リハビリに、真剣に取り組み始めた。
いや、それまでが真剣じゃなかったわけではない。
だけど真剣さに目標ができた。
転ばないこと。
早く歩けることよりも、
転ばないこと。
そのためには歩みがのろくてもいい。
どんなに不格好でも、
不細工でもいい。
転ばないこと。
それが一番の目標になった。
と、ここまで書いてきて思う。
それ、ちょっとウソ、入ってない?
Hさんは言うだろう。
「岡さんの目標は、かっこよく歩けることでしたよね」
えぇ。
たしかにそう言いました。
先生、ごめんなさい。
先生の前では「かっこよく歩く」ためにリハビリしていました。
でも実は、転ばないことが第一目標だったのです。
ひそかな目標だったのです。
「かっこよく歩く」前に、「転ばない」こと。
H先生、ゆるしてください。
よって私の目標は「転ばない」こと。
当然、H先生も転倒防止をなによりも第一目標とされていただろう。
「かっこよく」なんて、世迷い言を聞く必要はないのだ。
とにかく「転ばない」こと。
その前提のもと、
“階段”の訓練もより実践的になってくる。
H先生は実際の“階段”に私を放り込んだ。
ビルに備わった“階段”。
練習用ではなく、
普通の“階段”。
これをリハビリに使うのだ。