痛い だけど歩く

一進一退である。

良くなることもあれば、

極端に痛いときもある。

 

“テープ”をあきらめた私の、

“巻き爪”との付き合い方は一進一退。

 

痛いときは右足を地面に着けたくない。

いや着けなくても痛い。寝ていても痛い。

 

一方、それほど痛くないときもある。

緩和期、とでもいうのか。

それに他のことに気を取られて痛さを忘れてしまうこともある。

たとえばリハビリ。あるいは“宿題”。

 

 

言語聴覚士のUさんは、

相変わらず私に“宿題”を与えてくれた。

単純な計算問題。

数ページではあるが、“本”を読むこと。

それから新聞のコラムにインスパイアされて自由に書く“文章”。

 

宿題に取り組んでいる間、私は“巻き爪”を意識しなかった。

それは緩和期だけでなく痛いときも・・・

つまり、私には“集中力”が戻りつつあった。

 

 

それから“歩く”こと。

そのころは朝食前だけでなく、夕食前も歩いていた。

痛いときは右足を引きずってでも、歩いた。

というか、右足は最初から引きずっている(笑)。

だから見た目は普段と変わらない。

ただ、私の中では大違い。

やはり親指は痛いのだ。

 

でも歩く。

 

なぜか。

体力の衰えを感じるからだ。

 

退院後はすぐに出社しなくてはならない。

いや、会社からそういう要請があったわけではない。

だけど自分で決めていた。

退院したら出社する。

でもその体力は、

私に備わっているのだろうか・・・

 

 

私は焦っていた。

じつは、私の体力はどんどん衰えていく。

たとえば・・・

 

歯磨きのとき、私は立って磨けなかった。

歯磨きの間、私は洗面台に常備してある椅子に“座って”磨いていた。

もちろん立ったまま磨くというチャレンジは何度もやった。

しかし、やはり椅子に座ってしまうのだ。

 

あるいはリハビリの合間。

ベッドに寝転がることが多くなってきた。

「なるべく椅子で生活するように」と言われていたものの、寝転がる。

10分でも20分でも寝転がる。

そうして天井を見上げ、ため息をつくのだ。

 

“根性なし”・・・

そう言われても反論できない。

だけど私は入院中、あることを覚えた。

というより叩き込まれた。

 

「無理はしない」

 

リハビリの先生方も、看護師さんも、ことあるごとに諭した。

「再発しないように気をつけて・・・」

そんな私が、一方で“歩く”。

 

矛盾している。

そんなことわかってる。

でも歩く。

そして、休む。

自分の身体と相談しながら、歩く。

そして休む。

痛い。

だけど歩く。

そして休む。

 

しかし、である。

そもそも“巻き爪”の原因は何なのか。

それをだれも教えてくれなかった。

医師も、看護師も、リハビリの先生も。

どうして“巻き爪”になるのか。なったのか。

それがわからなかった。

 

だれも教えてくれないので、私は考えた。

(って、これも“考える”というリハビリ・・・?)

 

まず右足のかたち。

入院以来、どうやら親指の根元が少し左側に出っ張っている。

左足と比べれば歴然だ。

出っ張っているから、親指の生えている方向が変わっている。

本当はそのまま前に向かう親指が、

右側、つまり人差し指の方へ曲がっている。

 

で、その人差し指である。

これが最初から変形している。

半身麻痺になったときから、右足の人差し指は曲がって動かないのだ。

 

正確に言うと人差し指の第1関節が曲がっている。

右手と同じように

(いや右手はすべての指が内側に曲がっている)

右足は人差し指の第1関節だけが曲がり、丸まっているのだ。

そこに、曲がった親指が寄り添うようにくっついている。

 

うーん。なぜだ。

なぜ、親指が曲がっているのだ。

なぜ親指の根元が出っ張ってしまったのか。

 

考えられる原因はひとつ。

“装具”である。

 

右足につける装具は足先からふくらはぎまでをカバーしている。

装具を身体に装着するのは、4本のベルト。

それぞれマジックテープで留めるようになっている。

そのマジックテープ。

4本中、下の2本は特にしっかり締める。

そうしないと歩くときに不安定になる。

“転倒”の危険が高まる。

その“下の2本”のうち1本が、

親指の根元のすぐ下を、ギリギリと締め上げているのだ。

 

私は考えた。

これって女性のハイヒールに似てはいないか、と。

 

ハイヒールは否応なしに指を締め付ける。

半ばつま先立ちの格好で、つねに足指に負担をかける(ように思う)。

私の右足も、指にかなりの負担がかかっている・・・

 

ただ、

だからといって“装具”は外せなかった。

ハイヒールは脱ぐことができる。

(というと、女性の方から怒られるかな・・・?)

私の場合、“装具”抜きの生活は考えられない。

つまり私にとって

“巻き爪”は宿命なのだ・・・

 

いまでも“巻き爪”の原因はわからない。

すべては私の想像だ。

しかし、大まかなところでは合っている。

そう思っている。

“巻き爪”が発覚したのは

“装具”をつくって1カ月ぐらい経った4月の上旬。

症状がひどくなったのは5月になってから。

つまり“歩く”ことを本格化してからだ。

 

普通であれば落ち着くまで様子を見れば、と。

“巻き爪”が治るまで、歩くのはやめよう。

 

しかし私は歩いた。

“原因”を(勝手に)特定してからは、以前にも増して歩いた。

それは覚悟を決めたからだ。

 

“巻き爪”は治らない。

しかし会社には行きたい。

だったら体力の回復だ。

 

痛みは、おそらく慣れる。

だけど落ち込んだ体力は、私のすべてを壊す。奪う。

だから・・・