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​脳が

どこかに・・・

“集中力”も奪われる

長い文章が苦手だった。

 

病気になってから苦手になった。

せいぜい新聞のコラム。

朝日新聞の『天声人語』や、

読売新聞の『編集手帳』など。

500字から600字くらい。

それくらいならなんとか読める。

だから“宿題”は、毎日そのどれかを読んで感想を書いた。

 

ただ、それが限度である。

 

そういえば本も読む。

U先生とともに『聞く力』を読み終え、

養老孟司の『バカの壁』へ。

それも“宿題”だ。

 

でも1日4〜5ページ。

それ以上は読めない。

 

なぜか。

 

“集中力”である。

 

 

脳の病気は集中力を奪う。

いや、もとい。

“集中力も”だ。

 

脳の病気は集中力も、奪う。

うん。そうだ。

脳出血はその他にもいろんなものを奪った。

あんなことも、こんなことも・・・(ま、いいか)

 

今回は“集中力”。

 

集中力がもたない。

途切れてしまう。

 

途切れるだけならまだいい。

再び戻せばいいからだ。

 

しかし、戻せない。

​集中力が、戻らない。

 

脳が疲れている・・・。

そう感じることが多々あった。

 

さらに、である。

いったん集中力が途切れると、

なんと最初に読んだ部分を忘れてしまうのだ。

 

 

ショックである。

 

“宿題”は誤魔化せる。

コラムはわずかだし、本も4〜5ページ。

しかもその感想だ。

だいたいの内容がわかっていれば

感想は書ける。

だから乗り切ってこられた。

なかにはコラムの内容とは全然関係ないことを書いたり。

 

だけど、今回は“仕事”である。

ライターとしての仕事。

誤魔化すことができない。

 

 

総務人事部長のFさんは丁寧にレクチャーをしてくれた。

私はその内容をノートに書いた。

 

倒れた日から5カ月。

一度も開けてないノート。

私は新しいページを開けた。

 

 

そのとき書いたページが残っている。

左手で書いた文字。

シャープペンの文字。

悲劇的にきたない。

 

「美容室経営者と一緒に世の中を変える」

 

Fさんが言うとおりに、私は書いた。

 

そう。

セイファートのコンセプトだ。

つまりは会社案内のコンセプト。

毎年、そうだった。

だから私はFさんの言葉にすんなり対応した。

ただ、きたない。

しかも文字が右に行くにつれ下がっていく。

でも、まぁ読める。

漢字も書けている。

 

「何とかしたい」

 

それが2行目だ。

これはFさんの思いか。

 

それからの2行は、どうやらしめきりの話だ。

「今月の後半」

「1/10(月)にチャレンジ」

メモは結局、その4行で終わっている。

 

 

ん?

 

「今月の後半」

これはFさんの言葉だ。

おそらく「今月の後半にはリニューアル・オープンしたい」という意味だろう。

 

ただ、問題は「今月」。

脱線ばかりで申し訳ないが、これは「4月」の話だ。

 

思い出してほしい。

私が初めて街を歩いたのが4月23日。

 

「ライターとして仕事を受け、納品」したのが「その10日ほど前」。

 

ということは、Fさんの来訪はその少し前、ということになる。

 

なのに、である。

私はノートになんて書いたのか。

 

「1/10(月)にチャレンジ」

 

 

おそらくこんな会話が交わされたのだろう。

 

「今月の後半にはオープンしたいんです」と、Fさん。

「なるほど」と、私。

 

「で・・・しめきりは・・・いつ?」

「できれば10日くらいにいただければ」

「ほう。10日・・・。できるかなぁ」

「だいじょうぶですよ、岡さんならできます」

「いやぁ・・・おれは・・・失・・・失語症だし・・・文章も・・・」

なんとか言葉をしぼり出す。

すかさずFさん。

 

「だいじょうぶです」

 

 

いったい彼女はどこにそんな確信をもっているのか。

 

「あぁ・・・じゃあ10日・・・でもチャレンジ・・・ということで・・・」

 

そう言って私はノートに書いたのだ。

「1/10 (月)にチャレンジ」

 

「10日」とは、4月の10日。

なのに「1/10」と。

しかも(月)。

 

4月の10日は月曜日だった。

合ってる。

でも、「1」と書いたなんて。

 

そのときは気づかない。

Fさんも気づかない。

だってノートをのぞき込んだりはしない。

 

かくして“仕事”の発注はおわった。

 

 

さて。

 

Fさんが帰ったあと、考えた。

どうしようか・・・。

 

Fさんは資料として現行の原稿を出力して持ってきていた。

直して欲しい部分はマーカーで塗りつぶしてある。

それが数カ所。

 

それぞれは、けっして多くはない。

ただ、原稿全体となると・・・。

 

それを全部読み込み、

細部にわたって把握し、

前後の整合性をとりつつ新しい内容に変えていく・・・。

 

 

うーん。

ま、とりあえず寝よう。

明日、起きてから考えよう、っと。

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