時間が、おかしい

『意志』の表明。

それはいろんな場面へと拡がっていく。

 

たとえばリハビリ。

 

私は言語聴覚士のUさんに「告白」した。

「時間に不安がある」と。

「時間がおかしいんです。時間の感覚が・・・わからないんです」

 

たとえば

昨日の睡眠時間は何時間だったか・・・。

 

普通は寝た時刻と、起きた時刻を聞けばわかる。

そりゃそうだ。

だれにでもわかる。

小学生でもわかる。

ところが私には、わからなかった。

 

“時間”のことは

じつはずっと気になっていた。

ただ、言うのをためらっていた。

 

なぜか。

 

それが一時的なものかも知れないと思っていたこと。

 

ま、そのうち治るだろう。

そう思っていた。

思い込もうとしていた。

だってこれ以上はたくさんだ。

異常なことは起こりえない。

起こってほしくない。

起こるはずがない。

じゃないと頭がおかしくなりそうだ

・・・って。

 

もうおかしいのだ。

頭が。

というか脳がおかしいのだった。

 

そうか。おかしいか。

そうだよな。まいったな。

 

 

加えてもうひとつの理由。

それは時間というより

“計算”ができないのではないか、と。

 

「計算ができない」

そういう事実というか、

事態に直面することになる。

それもできれば避けたかった。

 

“失語症”の特徴として、

“計算”もできなくなる。

そんなケースがあることは知っていた。

 

それがついに顔を出し始めている

・・・というか最初からあったのだ。

 

 

計算“も”、できなかった。

ただ、それが表にでることはなかった。

それより“漢字”。

漢字の読み方。

このショックが大きかった。

 

だけど・・・。

 

言うしかないと思った。

思い切って「告白」するしかない。

「表明」するしかない。

じゃないといつまでもこのままだ。

私が言わなければUさんは気づかない。

 

Uさんは、私のすべてを知っているわけではなかった。

“授業”の過程でいろんなことに気づいてくれるが、すべてではない。

私が言わなければ、本当のところはわからない。

私が『意志』を持たなければ、リハビリも拡がらないのだ。

 

さて、「告白」を受けたUさんは、つとめて冷静に言った。

「あら。じゃあちょっと問題を出しますよ」

そう言ってニコニコしながら、真っ正面から切り込んできた。

「午前10時から4時間後は何時ですか?」

 

答えられなかった。

 

 

私はUさんに「告白」した。

その日から、

宿題にあらたなラインアップが加わった。

 

 

●次の計算を、できるかぎり速くしましょう。

開始時刻□分□秒

9+4−1=□

6−3+8=□

 (こんな問題が50問。そして最後に)

終了時刻□分□秒

所要時間□分□秒

 

足し算と引き算である。

しかも一桁。

また小学生だ。

でも、「こんなもんできるか!」とは思わなかった。

私は先生の指示に従った。

やってみようと思った。

 

時間の感覚も、数字という点では同じだ。

時間にたどりつく前に、

もういちど数字の感覚を思い出そう。

数字に慣れてみよう。

しかも一から。

一桁の足し算から。

 

・・・なんて殊勝なことを考えたのではなかった。

単純にできなかったのだ。

漢字の読み方と同じだった。

失語症は算数も手こずる。

 

たとえば

3+7−1=8

9+8−6=10

7+4−8=2

7−3+4=0

 

恥ずかしいけど、こんな調子だ。

(50問中、この4問が×。他は○ですよ)

所要時間は9分12秒。

(ちなみにその所要時間、“iPhone”のストップウォッチで計測したもの。開始時刻と終了時刻との差を求めた“計算”結果ではなかった)

 

【写真_27】(クリックしてください)

 

 

算数はその後もつづく。

そして間違いも、つづく。

有名な『百マス計算』が宿題に加わる。

足し算が掛け算になる。

単に計算ではなく、“問題文”も出てくる。

 

「100円の鉛筆と70円の消しゴムを買うといくらですか」

 

さすがにそれはわかる。170円!

【写真_28】(クリックしてください)

 

 

だけど・・・“時間”の感覚は治らなかった。

一向に、治らなかった。