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“医学の常識”を超えて

「すみません」

「ありがとうございます」

 

何度、その言葉を使っただろう。

その言葉だけで私は生きていける。

そんな気持ちに何度も陥った。

特に“失語症”は、私を芯から揺さぶった。

 

“自分はもう、しゃべれない”

“ライターなのに、インタビューができない”

 

その事実が、私を追い詰めていた。

 

 

なんとかそれに反抗したい。

インタビューができなくても、私は“書ける”。

それを証明するんだ。

そんな想いでスタートした『文章のリハビリ』。

 

あの“締め切りしらず”の遅延ライターが、

毎週金曜日という締め切りを設けて1年間、それを守り切った。

 

文章の内容はともかく、

締め切りを守ったという快挙。

ま、自分だけの独りよがりだが、そこだけは評価している。

 

        ●

 

さて、今日は2019年7月12日。金曜日です。

退院して2年と1カ月。

その間、リハビリはどこまで進んだのか。

 

(いまから1年ほどまえのことですが、ひとつの“記録”として残しておきます)

 

【右手】

右手が動くようになるには、まず“肩”が動かなくてはならない。

肩が動いたら次は“肘”。

そのあとに“手首”。

そしてようやく“指”が動く・・・

入院中からそう言われてきました。

 

今、ようやく“肩”が少し動くようになりました。

ほんの少し、ですが。

 

それに食事のとき、右手は必ずテーブルに出しています。

動かない右手をテーブルに“上げる”のは、けっこうたいへんですが

いつも右手が視野に入っていること。それが回復には必要なことだ、と。

 

退院後1年以上、右手はずっと下に、

足の上に置いてある状態でしたけど(痛くて上げられなかった)、

今はテーブルの上に。

つまり身体の一部として認識できるようになりました。

 

あ、それからテーブル上の右手だからこそひとつ、できることがあります。

それは食器が動かないように押さえること。

私の右手は立派に役に立ってます。

 

 

【右足】

歩幅が大きく改善してます。

当初は4分の1歩。

それが最近、ほぼ1歩。

 

歩くスピードも上がりました。

国道246号の交差点も“青信号1回”で渡りきれるようになってます。

 

それから階段。

家の中の階段を、なんと1歩ずつ交互に上ることができるようになりました。

今年(2019年)の2月のことです。

 

それまでは左足で1歩上ったら、右足も同じ段まで1歩。

つまり2歩で階段1段。

それが1歩ずつ上ることができる。

まだ家の中だけですけど・・・

 

 

【右頬】

足や手と比べて目立たないけど、じつは顔にも問題を抱えています。

右半身麻痺ですから、顔の右側にも麻痺が出るのです。

 

まず右目が、(私の感覚では)下に落ちてきそうになります。

右頬も、一緒に落ちてきます。

しかし、人は「そんなことない」と言います。

鏡を見ても、一見すればわかりません。

ただ、恐ろしいことに“よだれ”が一筋。

右の唇からツーっと・・・

しかしやっかいなことに私には“よだれ”が出てるなんてわかりません。

感覚がないんです。

だからつねにハンドタオルで口周りを拭いています。

 

あ、それから食べた物が右の唇から外に出てしまいます。

これも気をつけているんですけど、

一緒に食事した人に指摘されます。

それはほんとに「ありがたい」と思います。

だって口の端に食べ物をつけたまま外を歩く、なんて、それこそ“失態”。

恥ずかしいことですから・・・

 

 

​       ●

 

 

「医学的に6カ月が限界」だと言われたリハビリの効果。

それはずいぶん前に書きました。

それ以上はやっても無駄だ、と。

​医師の間ではそれが常識・・・

えっと・・・第17話です。

 

しかし6カ月を超えても、

私は回復している。

わずかな進歩だが一歩ずつ、確実に回復している。

それは実感です。

 

毎週、家に来てくださるリハビリの先生方。

ありがとうございます。

先生方のおかげで私は一歩ずつ、確実に回復しています。

 

それから周囲の方々。

主に“ひろの亭”の常連の方々。

たとえば『武医道』の府川先生とヘンリックさん。

おふたりも私のリハビリに参加してくれています。

 

また歯科医の直子先生。

歯の治療だけでなく、

口腔衛生から各種医療情報も伝えてくれています。

 

そのほかにも多くの人々が、さまざまな場面で関わってくれています。

そしてもちろん入院中の先生方。

とくに理学療法士のH先生。

言語聴覚士のU先生。

おふたりのおかげで、私はいま、

なんとか日常生活を送っています。

 

つまり、

私はみなさんの総合力に支えられています。

その総合力で、

私は身をもって「医学の常識」を変えている(?)。

 

そう思うことにしています。

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