“車椅子”にはやさしい交差点

スロープ、である。

 

えっ? 交差点のどこにスロープが?

そう思う人も多いだろう。

 

私もそうだった。

病気する前は、

スロープなんて意識する間もなく渡っていた。

 

しかし・・・

 

杖をついて交差点へ向かう。

相変わらず視線は目の前の道。

視界1・5メートル。

加えて信号だ。

視線は上にも動く。

今、何色なのか。

それも見なくてはならない。

 

交差点が近づいてくる。

あ、青だ。

到着するころには黄色、赤。

うん、次の青まで少しは余裕があるぞ。

そう思って視線を目の前の道に。

 

さぁ交差点に到着だ。

って、ちょっと待て。

なんだこれは・・・

 

私は急ブレーキをかける

(ごめんなさい。大袈裟です。ブレーキをかけるほど歩みは早くない)

私の目の前には、スロープが・・・

 

 

歩道と車道。

2つを分けるのは“段差”である。

通常、歩道の方が1段上になっている。

だから交差点では、その段差を解消しなくてはならない。

そこで用いられているのがスロープだった。

 

このスロープ。

車椅子の方には好評だろう。

段差のない世界。

バリアフリー。

車椅子の方でもスムーズに渡れる交差点。
 

確かにバリアフリーである。

だが、

杖をついて交差点を渡ろうとする私にとっては“恐怖”なのだ。

 

 

スロープは、

交差点に向かって“下向き”である。

その下向きが最も怖い。

 

以前、書いた。

 

「下りは恐怖だが、上りは楽だ」

 

交差点のスロープは、その下りだった。

だから少しずつ、ゆっくり下って・・・

と、アドバイスをくださる方。

ありがとうございます。

ただ、問題は“交差点”なんです。

信号機付きの交差点。

青になった瞬間に渡り始めないと、渡りきれない。

だからギリギリまで前に出て、青になる瞬間を待つ。

なのに歩道と車道の境目にはスロープが。

しかも“下り”。

 

私は迷う。

このまま前に出るか。

それとも手前で待つか。

でも、

手前で待ったら青の間に渡りきれない。

やはり前だ。

ギリギリまで進もう。

そう思って一歩、前に出る。

その瞬間、ものすごい恐怖が全身に広がるのである。

 

「やばい、車道に吸い込まれてしまう」

 

 

これも以前書いた。

杖をついて街を歩く者にとって、下りのスロープは・・・

 

「右足で一歩進むとすぐに左足が動く。左足が追いつくと、すぐさま右足が一歩進んでいる。身体は前掲姿勢になり、前につんのめって倒れそうだ」

 

つまり車道の目の前で、

“転倒”の恐怖が襲ってくるのである。

しかも車道に向かって倒れていく・・・

 

 

なにを大袈裟に・・・

 

そう思われても仕方がない。

私だって以前はそうだった(と思う)。

だけどけっして盛ってはいない。

ほんとうに恐怖なのだ。

しかもその恐怖は今でも抜けていない。

 

でも、と思う。

スロープによって車椅子の方が楽に交差点を渡れるのなら・・・

そっち優先でいいかな。

 

 

で、バスである。

ずいぶん回り道をしてしまった。

スミマセン。

 

バス停にバスがやってきた。

前方のドアが開く。

その瞬間に私の“脳”は、めまぐるしく回転する。

(ごめんなさい。ウソです)

 

まず、ステップの高さ。

 

この練習は、何度も繰り返した。

10センチ、20センチ、30センチ。

そういう段差の練習用階段がリハビリ・ルームにはあるのだ。

 

20センチまでなら何とかイケる。

ただ30センチは苦労する。

 

東急バスで通勤していた私は、Hさんに言うのだった。

「30センチのステップなんてないですよ。バスも進化してるんだから」

 

 

確かにバスの乗降ステップは、多くが20センチ以下だ。

そのとき乗った都営バスもそうだった。

どういう仕組みが知らないが、

空気圧で全体が傾き、

乗降時にステップが下りてくるバスさえある。

こういうところも“バリアフリー”。

東京は、障害者や高齢者にやさしい街になりつつある。

 

 

さて、バスである。

“脳”の次の指令。

「手すりの有無を調べよ」

 

バスの乗車口には“手すり”がある。

必ず、ある。

これも意識していなかった。

前方の、乗り口のドア。

それが開くと

ちょうど左右のドアの内側に

斜め方向の手すりがある。

 

私は左手でその手すりを持ち、

左足を思い切って上げる。

上がったと同時に、右足も上げる。

乗れた。

すぐにHさんも乗ってくる。

 

私は杖を左脇に抱え、

左のポケットから左手で“PASMO”を出して“ピッ”。

流れるような行動で、

晴れて“乗客”となった。

 

 

その間に“脳”は次の指令を出している。

「空いている席を探せ」

 

真っ先に見たのは“優先席”。

それ以外は、まったく見ることはなかった。