​2020年12月18日

トランプさんの催眠術

「ねぇ、ずっと考えていたんだけど・・・」

「なにを」

「トランプさんのこと」

「また?」

「いやトランプさんというより、アメリカ人のこと」

「どういうこと?」

「だって7000万人よ」

「あぁ得票数ね。7300万票って言ってたかな」

「すごい数字だよね」

「すごいね」

「信じられない」

「でもバイデンさんは8000万票」

「それも信じられないけど」

「で、どーした。なにを考えてるの?」

「アメリカっていう国のこと」

「国?」

「だって国が真っ二つに分かれちゃってるってことでしょ」

「まあね。分断してるね」

「しかもその分断をトランプさんが煽ってる」

「それが今までの大統領選挙と違うところだね」

「今までの候補者はすんなり負けを認めてたわけよね」

「前回のヒラリーさんのようにね」

「でも今回のトランプさんはハナから認めない」

「だけどそれはもう決まったでしょ。選挙人の投票が終わって確定したって」

「うん。でもトランプさんは認めない」

「ほんとは認めてるんじゃないの。ただ、支持者の手前、認めないとか」

「そこよ、問題は」

「えっ? どうゆうこと?」

「ちょっと前だけど、新聞におもしろい記事が載ってた」

 

 

アメリカ・グレート・アゲイン 

覚めぬトランプ催眠術 

倫理基準、歴史認識、愛国主義がまひ 

鈴木透・慶大教授

(毎日新聞2020年11月25日 東京夕刊)

 

「どういうこと?」

「アメリカ人は催眠術にかかってる、って」

「どんな?」

メイク・アメリカ・グレート・アゲイン

「知ってる。前回の選挙のときから言ってた」

「そのコトバに多くのアメリカ人がなびいた」

「ま、米国を再び偉大な国に、だからね。だれもがそう思ってるかも」

「それが問題なのよ」

「なんで?」

「再びって、いつのことよ。いつのアメリカに“再び”戻すの」

「うっ・・・」

「偉大ってなに? どう偉大だったの?」

「うーん。なるほど」

「アメリカはかつて偉大だった。だけど今はそうじゃない、ってことよね」

「そうだね。そういえばそうだ」

「でもそれってホントなのかな」

「どうして?」

「だって昔は偉大だったって言われてもね」

「あ、それはきっとぼくらが日本人だからさ。アメリカ人なら知ってるよ」

「なにを?」

「歴史っていうかさ。アメリカの歴史」

「どんな?」

「アメリカはグレートだ、っていう歴史」

「だから、どんな歴史?」

「うーん。ま、スーパーパワーっていうか。とにかく一番だろ」

「そう思う?」

「うん。まぁ。軍事力も一番だし」

「でもそれは今でしょ。今、軍事力は一番だ」

「てゆーか昔から一番だった。で、今も一番」

「でもトランプさんはグレート・アゲインよ」

「あ。なるほど」

「昔はグレートだった。でも今は?」

「ちがう、と。だから取り戻そう。そうか」

「ま、どこかの国の総理大臣も同じこと、言ってたけど」

「日本を、取り戻す・・・。そうだね。言ってたね」

「ま、それはいいや。今日は触れない。でも・・・同じことかもしれない」

「日本は昔すごかった。でも今はそうじゃない」

「だから取り戻す」

「まさにグレート・アゲインだね」

「ま、いいや。今日はいい。その話題には触れない。でね、鈴木教授は言うわけ。トランプさんはどの時代のアメリカが、どう偉大だったかを語っていないって」

「なるほど。でもメイク・アメリカ・グレート・アゲインは有名だよ」

「私たちも知ってるくらいにね。でもアメリカが実際、どの時代にどう偉大だったのよ」

「うーん」

「トランプさんはそれをわざと明かさない」

「そうかなぁ」

「だって根拠がないから。言えないのよ」

「あ、それって現・首相と同じだ。学術会議の排除問題で、根拠がないから言えない」

「またぁ。話がこんがらがっちゃうからやめて」

「ごめん」

「で、鈴木教授は言ってるの。『グレート』はただの空虚な記号になっていく

「空虚な記号・・・」

「そう。記号。だけどそれを連呼することで、知らず知らずのうちに人々に浸透していく」

「意味もわからず連呼する・・・ってこと?」

「いや、意味はわかってるの。メイク・アメリカ・グレート・アゲインだもん。私だってわかる。ただ、表面の、いわゆる字面(じずら)の意味。で、意味はわかるから、しかもだれにでもわかるから連呼もできる。だけど連呼する人々は、そのコトバの根拠をしらない」

「そうか。そうかもね。てゆーか、トランプさんにもわかってないんじゃない?」

「そうね。でもコトバって不思議なもので、口にすることでなんらかの影響がでる。その人のこころに影響が出てくる」

「大声で何度も叫べば、そりゃなにかしら影響が出てくるよな」

「それをトランプさんは知ってたのかな。鈴木教授はこんなことをいってる。この空虚なスローガンで支持者を「催眠状態」にし、三つの深いまひ状態を引き起こした

「催眠状態・・・? 三つのまひ・・・?」

「催眠状態にしておいて、まずは倫理基準をまひさせる」

「倫理ねぇ。それは確かにまひしてる」

「まず移民や女性といった弱者に対するモラルが崩れていった」

「まぁ差別的な言動が多かったね」

「大統領が率先してモラルを崩した」

「まぁリーダーがそれじゃあ、人々もそれに倣うよな」

「みんなじゃないわよ」

「まあ、そうだ。たとえば共和党の支持者?」

「移民は排除する。国境に壁をつくる。女性は差別。人種も差別。白人至上主義。反知性。非科学。陰謀論・・・」

「ほぉ、いっぱい出てくるねぇ笑。で、いつしかトランプさんだけじゃなくって、支持者の多くもそうなっていった」

「それに加えて、歴史認識と愛国主義の土台をまひさせた」

「それに民主主義もね」

「そうよねぇ」

「でもトランプさんって、すべて知ったうえで連呼してたのかな」

「どうかな。わかんない。だけどなにかは感じ取っていた」

「これをつづければ勝てるって?」

「うん。そういう意味では天才的だった」

「だった、って。先週も言ったけど、本人は負けてないぞって」

「1月の、バイデン大統領の就任式の日に、出馬宣言をするとも言われてる」

「次の大統領選挙にね。2024年だっけ」

「でもアメリカ人はそれを許すのかしら」

「ありうると思うよ。だって7300万票だから」

「しかも催眠術で操っているし」

「こわいね」

「こわい」